早期退職を夢見て

Dreaming of early retirement

肉体の悪魔

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若干16歳から18歳の間に、フランス文学史上に不朽の恋愛心理小説「肉体の悪魔」を著わし、わずか20歳の若さで夭折した早熟の天才ラディゲの代表作。

高校生の頃、SFからミステリー、そして外国文学、純文学、なんでも乱読してゆくなかで、この本に出会ったときの感動というか、恐怖、敗北感は忘れられない。
自分の理想としている文体、描写と全く同じものがそこにはあった。彼に激しく嫉妬した。
彼と自分との差は6、70年前という時代背景なのか、日本とフランスという文化の違いなのか、それ以前に自分とラディゲとの天性の才の違いなのか。
どちらにしろ、これに少しでも近いものでさえ、書ける気はしなかった。

「書くためにはまず生活しなければならぬというのが常套語である。それは、ゆるがせにできぬ一つの真理でもある。だが、私の知りたいのは、幾歳になったら≪私は生活した≫と言える権利があるかということだ。この定過去は、論理的に言うと、死を意味してはいないだろうか? 私の考えを言えば、幾歳であろうとも、ごく幼い時から、われわれは生活しはじめているのだと思う。」

そう言われて納得しながらも、その当時の自分は書くための何も持っていないと思い込んでいた。ラディゲの言葉に打ちのめされながら、「30までは、ものを書くために一生懸命いろいろな生活をしよう」と誓った。
そして今、30をとうに過ぎてもやはり書くに足る生活を送ってきたという自信は持てない。

それでも書く、そんなことなんだろうなってやっと思えてきた。